ドラえもんが現実に!? AI業界の変遷から読み解く、生成AIのすごさと可能性

INTERVIEW 006
KENSUKE OZAWA
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AI業界の最先端を取材する有識者は、生成AIの台頭をどのように見ているのか。AI分野で1000本以上の記事を執筆してきたAI専門メディア「AINOW」編集長の小澤 健祐氏にお話を伺いました。生成AIの未来について、小澤氏は『ドラえもん』をキーワードに話を展開し、「ChatGPTも、ひみつ道具の1つに過ぎないかもしれない」と語ります。ChatGPTがAI業界にもたらした変化や注目のビジネスモデル、実現されるであろう未来予測から、生成AIのすごさと可能性を探ります。

「AIを作る時代」から「AIを使う時代」へ。ChatGPTの登場は時代変化を象徴

ー2022年11月にChatGPTの提供が始まってから、AI業界に変化はありましたか?

「AIを作る時代」から「AIを使う時代」に変化していると感じています。2010年代のAIは、特定の課題に対応するためのモデルを個別に作ってプロジェクトを立ち上げ、検証を行うという”作る”時代でした。しかし、ChatGPTを含むファウンデーションモデル(基盤モデル)のような幅広いタスクに汎用的に対応できるモデルの登場により、AIを「どのように作るか」から「どのように使用して価値を生み出すか」という思考へとシフトしています。ChatGPTの登場は、時代変化を象徴する出来事だと感じています。

以前はAIのプロジェクト進行や実装に関する話題が多かったのですが、近年では一つひとつの職種や業界がどのように変化していくのか、という幅広い視点での話題や議論が増えてきたと思います。まさにAI技術の浸透が進み始めている印象ですね。

ー生成AIが生まれたことで、AIの関わる範囲が広がったということですね。

はい。これまでのAI技術は、主に画像認識や簡単な自然言語処理といったタスクに限られていて、適材適所での利用が前提でした。しかし、生成AIの出現により、特に人間が使う自然言語の処理能力が飛躍的に向上しました。人間は日常の多くのタスクをテキストベースで行っています。例えば、会議でのコミュニケーションやメールのやり取りなど、言葉を使って情報を伝えることが中心です。生成AIがテキストを効率的に処理できるようになったことで、これまでAIの導入が難しかった様々な業務にも応用が可能となりました。そのため、生成AIの登場は、AIの適用範囲を大きく広げる転機となる出来事だと思いますね。

社会の様々な分野に革命をもたらす。生成AIによるビジネスモデルの変化

ーAI専門メディアの編集長として様々な取材をされている中で、生成AIを使った注目のビジネスモデルはありますか?

生成AIの活用における今後のビジネスモデルとして最も重要となるのは、社内の一次情報と生成AIをどう結びつけるかだと思います。例えば社内マニュアルを参照して回答を出力してくれたり、自社の過去の営業資料をもとに新たな営業資料を作成してくれるなど、社内の一次情報と生成AIが接続されたとき、私たちの業務に与えるインパクトは計り知れないほど大きくなるでしょう。

また、現時点のChatGPTは、プロンプトを入力するために人間の介入がある程度必要となります。しかし、将来的にはAPIを通じて自動的にインプットすることが可能となるでしょう。また、新たに登場した「Code Interpreter(コードインタープリター)」のようなプラグインをはじめ、今後は画像や音声など多様なデータ形式での入力ができるようになります。これらを踏まえ、今後は社内の一次情報と生成AIを連携させ、あらゆる業務を代替するサービスが登場すると思います。

ー既存産業のビジネスモデルにも影響はあるのでしょうか?

生成AIは様々な産業分野に革命をもたらすと思います。生成AIがあらゆる情報をもとに、人間の目的にあった出力ができるようになれば、ほぼ全ての産業分野でビジネスモデルの再定義が起きる可能性があります。特にITへの依存度が高い分野ほど、早くビジネスモデルの変革が進んでいくと思います。

あわせて重要になっているのは、多様な背景を持つ人々が、生成AIのあり方や方向性を議論を交わしていくことです。社会に与えるインパクトが大きいからこそ、「生成AIに関係がない人間はいない」と捉え、一人ひとりが積極的に新しい社会のあり方を考えていく必要があります。政府や業界団体の動きの重要性も高まっています。特に、生成AIの可能性だけでなくリスクも議論し、脅威論で語るのではなく、「どのようにデザインするか」の視点が求められていると思います。

ドラえもんのような存在が現実に!? 実現には心理学や社会学からのアプローチも

ーAI業界は今後、どんな未来を歩んでいくと思いますか?

AIの未来に関しては、「汎用人工知能」について、具体的に分解して考えることが最も大切です。汎用人工知能と聞くと、ドラえもんや鉄腕アトムを思い浮かべる人も多いでしょう。ドラえもんのすごさは、四次元ポケットから取り出されるたくさんのひみつ道具が、のび太くんが抱えた課題を一つひとつ解決していることです。これまでのデジタル技術の発展は、まさにドラえもんのひみつ道具を作っている過程だったのかもしれませんし、もしかしたらChatGPTも、ひみつ道具の1つに過ぎないかもしれません。

これからの未来では、ひみつ道具のように個別のソリューションとしてのAIだけでなく、のび太くんの状況やニーズに応じて最適なツールやサービスを四次元ポケットから出してくれるドラえもんのような存在、つまり「エージェント」としてのAIの登場も視野に入ってきます。このドラえもんのようなエージェントは業務の基盤となり、APIを通じて多様なデータやサービスと接続することで、私たちの生活や業務の基盤となり、パートナーのような存在になる可能性があります。AIをドラえもんとひみつ道具に分解するように、具体的な議論の中で未来を描くことが重要だと思いますね。

また、生成AIの活用スキルを磨くことは、文章を書く、企画を作る、デザインを行うといったスキルが手に入ることにもつながります。これは誰もにとって非常にチャンスですし、汎用性の高いスキルになり得ます。こういったことを理解し、プロンプトの技術を磨いていくこともオススメしたいですね。

ードラえもんのような存在が現実になるというのは、非常に期待が高まりますね。

さらに加えると、ドラえもんとのび太くんが「ともだち」になれたのは、ドラえもんに「ネジが抜けている」という欠陥があるからと捉えることもできるでしょう。欠陥があるからこそ、のび太くんはドラえもんに寄り添いたいと思えるし、人間と変わらない関係性を構築できているのではないでしょうか。各ひみつ道具は優れていても、ドラえもん自身の性能は決して高くない。これからは人間社会の中にAIがどのように溶け込むのかという議論がさらに重要になりますが、ただの機能追加だけでなく、人間との関係性のデザインが必要だと思います。

その方向性の一つとして「HAI:ヒューマンエージェントインターラクション」という心理学や社会学などの様々な学問を内包した学問分野があります。人間とエージェントの関係性を研究する分野なのですが、HAIの研究が今後拡大することで、人間とAIが共存できる社会のあり方の解像度が高まっていくと思います。ドラえもんとのび太くんの関係のように人間とAIとの関係性を築くためには、機能や性能だけではなく、様々な学問視点からのアプローチも必要となるということです。生成AIの発展においても、パラメータ数などの工学的な議論だけでなく、多角的な議論の中で、未来のAIをデザインすることが重要ですし、GUGAの重要な役割であると思います。そして、その研究の果てに、ドラえもんという存在が実現されるのではないかと感じています。

PROFILE

KENSUKE OZAWA

一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員/AI専門メディア「AINOW」編集長
「人間とAIが共存する社会をつくる」がビジョン。AI専門メディア AINOW編集長。AIベンチャー Carnotの事業戦略、生成AI教育事業を展開するCynthialyの顧問。AI分野の1000本以上の記事を執筆。AI活用コミュニティ「SHIFT AI」のモデレーター、ディップ 生成AI活用推進プロジェクトの推進。Cinematorico 創業者 / COO。