専門性は武器になる。エンジニアが読み解く「生成AIは仕事を奪う」のウソとホント

INTERVIEW 010
SHORI TOKUNAGA
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生成AIの台頭によって、エンジニアをはじめとする専門性の高い人の仕事は今後、どのように変化していくのか。ソフトバンクのXRエンジニアとしてのキャリアを経て、日本ChatGPT研究所ノーベルの運営などに取り組む、東京理科大学AI研究学生団体SpecTech 顧問の徳永 勝里氏にお話を伺いました。生成AIは仕事を奪う、という声も聞こえるなか、徳永氏は「生成AIによって、素人とプロの差はむしろ広がる」と語ります。生成AI時代に専門性の高さはどのように活かされるのか、そして本当に仕事が奪われる可能性はあるのか。エンジニアの目線で紐解いていただきます。

エンジニアにも衝撃あり。これまでのAIと生成AIの大きな違い

ーこれまでのAIと生成AIを比べて、最も大きな違いは何だと思いますか?

アウトプットに違いが生まれるところですね。これまでのAIは犬と猫を判別する、といったように誰が使っても同じアウトプットでしたが、生成AIの場合は使う側の会話力によってアウトプットに違いが生まれます。生成AIを使いこなすことができれば、非常に強力なブーストツールとしての役割を期待できるわけです。例えば、今までの作業時間が大幅に短縮されるかもしれません。大げさかもしれませんが、作業時間が半分や6分の1になるという話も聞きます。仕事の内容を正確に言語化する能力が高いほど、より効率的に作業を進めることができる世界が広がっていると感じますね。

ーエンジニアである徳永さんから見て、最近すごいと感じた生成AIを教えてください。

「GitHub Copilot」です。ChatGPTの技術をベースに、プログラミングコードを書かせることに特化したツールです。初めて触ったとき、このツールは100%流行ると確信しましたね。実際に、コードを書く時間が大幅に短縮され、かなりの衝撃でした。この革命的な進化を体験した際、初代iPhoneを思い出しました。もしGitHub Copilotが進化し続けて、「GitHub Copilot 10」になんてものが出てきたらすごいことになるな、というワクワクを感じたのを覚えています。

生成AIを使いこなす人が、使いこなせていない人の仕事を奪う可能性も

ーそのすごさから「生成AIにエンジニアの仕事が奪われてしまう」という懸念の声もありますが、どのように捉えていますか?

短期的には仕事が全くなくなるとは思っていません。現時点でエンジニアはまだ求められている状態で、むしろ足りていません。ただ、将来的には多くのエンジニアが生成AIを使いこなすようになり、書くことができるコードの量が増えていくでしょう。そうなると、生成AIを高度に使いこなせるエンジニアが、他のエンジニアの仕事を奪ってしまう可能性はあるかもしれません。

このような意見を言い過ぎると、一部のエンジニアからは反発の声も聞こえてきます。これは、彼らがこの問題に対して強い危機感を感じているからこそなのかもしれません。大げさに言うつもりはありませんが、個人的には5年スパンで見ると仕事が奪われる人がかなり出てくる状況になるんじゃないかなと感じています。

素人とプロの差はむしろ広がる。専門性はプロンプトに違いを生む

ー逆に、生成AIの活用において、既存のスキルが活かされるという側面もあるのでしょうか?

そうですね。特にエンジニアは活かせると思っています。次が文章を書くライター。その次が事務職で、GAS(Google Apps Script)やExcelのマクロといった関数のスキルも活用できますね。例えば、関数の知識を何も知らない状態だと、うまくAIに命令することができないわけです。前提の知識を持っているからこそ、毎月2日分の仕事を浮かせることに成功した、なんていう話も耳にしています。

ー専門性がプロンプトの作り方に影響し、アウトプットに違いを生むということですね?

その通りだと思いますね。プロンプトに専門用語を使用すると、よいアウトプットを得やすくなります。プログラミングを例にすると「いい感じのコードを書いてくれ」というプロンプトよりも、「このデザインパターンの中の要素を使って実装してください」といった具体的な専門用語を含むプロンプトのほうが効果的です。

ただし、専門用語の知識だけがあればよいわけではありません。実際に使ってみると、未知のジャンルでなんとなく専門用語を用いて指示を出すだけでは、なかなかうまくいかないんです。やはり専門性が高くて、その領域での知識と経験を持っている人が有利だと思います。

私は生成AIを初めて触った当時、「素人でもプロの領域で活躍できるのでは」と思ったんです。でも、生成AIを触れば触るほど、「素人とプロの差は逆にどんどんついていくぞ」と感じていて、同じように考える人も増えている印象です。結局、生成AIは手段であり、それぞれの専門性の高さを活かすという発想で生成AIを活用することが重要なのかなと思います。

ただ、直近Metaが発表した大規模言語モデル「Llama 2」の進化速度によっては、この予想はすぐに覆されるかもしれません……。このような変化に対応し続ける姿勢が一番大切ですね。

PROFILE

SHORI TOKUNAGA

一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員/東京理科大学AI研究学生団体SpecTech 顧問
「AIで格差を埋める」をテーマに活動し、日本ChatGPT研究所ノーベル(AI系Tiktokアカウント:フォロワー6.4万人/AI専門LINEコミュニティ:3,691名所属)を運営。生成AIの活用を動画でわかりやすく解説するTikTokアカウントは、開設から半年でAIジャンル最大のフォロワー数に成長。また「ChatGPTの教科書」を執筆し、これが日本で一番読まれるChatGPT基礎本の一つとなる。