学歴から「学習歴」重視の社会へ。生成AI時代のリスキリングを徹底解説
INTERVIEW 017
TAKAFUMI YAMAMOTO

生成AIの台頭は「学び」の定義を変化させるのか。東京大学が有する卓越した学術成果を、企業や社会人に教育という形で還元している東京大学エクステンション株式会社 代表取締役社長の山本 貴史氏にお話を伺いました。生成AIという衝撃的なテクノロジーの台頭により、企業からのリスキリング(学び直し)に対するニーズが高まる中、山本氏は「これからは学歴ではなく、学習歴が重視される」と語ります。生成AI時代に変化する「学び」の定義や人材の評価軸、輩出が求められる人材など幅広く解説していただきます。

SECTION 001

日本経済の再興のために。東京大学の先端研究を企業の成長に活かす橋渡し役

ー東京大学に100%出資されている、東京大学エクステンションのミッションをお聞かせください。

東京大学エクステンションは社会人のリスキリングやアップスキリング、いわゆる学び直しを促進しています。東京大学が有する卓越した学術成果を、企業および社会人の方々への教育という形で還元することで、日本の成長とイノベーションを推進し、社会の未来に貢献することがミッションです。東京大学がこうした会社を設立した背景には2つの理由があります。

1つ目は大学の新しい先端知識を提供すること。日本は学歴社会ですので、18歳の時の大学受験に成功したか否か、有名大学を出ているか否かで、その人の能力を判断されがちです。しかし、本来、社会に出た後に勉強を続けている人と全く何も学んでない人では差が生まれてくるはずです。私たちは卒業後も新しい先端知識をどんどん提供し、学び続けられる環境をつくりたいと考えています。

2つ目は、大学で研究している先端研究を事業に活かしたり、社会人に発信したりしていくことです。過去、大学で研究されていた先端技術は20年、30年後にようやく社会で利用されるものが多かった。しかし現在は、新しい技術が市場に出ていくスピードが加速しています。だからこそ、いち早く先端研究を社会に還元していく仕組みが必要だと考えています。

ー大学発の先端研究を企業の成長に活かすための橋渡しをされているわけですね。

日本経済の再興のためにも重要だと考えています。米国の場合、イノベーションが大学から生まれているケースも少なくありません。例えば、米国のスタンフォード大学からはGAFAの一角であるGoogleが誕生したり、過去にはサン・マイクロシステムズやジェネンテックといった先端企業が生まれたりしてきました。私たちが大学の最先端の研究をいかに事業に結びつけていくか、そして人材を育てることができるかが、今後の日本経済の再興につながると考えています。

SECTION 002

学歴から「学習歴」重視へ。生成AI時代に変化する、学びの定義や人材の評価軸

ー生成AIの台頭によって、「学び」の定義は変化するのでしょうか?

「学び」の定義は変化すると思います。これまでAIを使える人は、エンジニアなど特定のリテラシーを持った人だけに限定されていました。しかし、生成AIはプログラミングができない人も使うことができ、膨大な情報に容易にアクセスできます。そのため、これまでのような知識詰め込み型の学びに意味はなくなるでしょう。

道具としてAIをいかに使いこなせるか。それが仕事のできる人とできない人の分岐点になるかもしれません。さらに、これからは新たな価値を生み出す想像力とデザイン力が求められると思います。つまり、どちらかと言えば、知識の所有よりもスキルの習得が重要になってくるのではないでしょうか。そうすると、知識偏重型の教育も必然的に変化し、初等、中等教育にも影響が出るでしょう。また、これまで重視されてきた「学歴」というラベルが「学習歴」に変化していくと考えています。

ー「学歴」から「学習歴」への変化について具体的に教えてください。

どこで学んだかを示す「学歴」ではなく、何を学んだかを示す「学習歴」に重みづけがされるということです。日本ではまだまだ学歴社会が根強いため、卒業した大学のタイトルで評価されがちです。その結果、社会人になってから学び直す人は非常に少ないという現状があります。また、統計によっては、企業が従業員教育に投下するコストも、先進諸国に比べると少ないと言われています。

しかし、生成AIという衝撃的なテクノロジーの台頭により、企業は学び直しを推進しないと、従来型のビジネスだけでは立ちいかなくなるのではないでしょうか。新規事業の立ち上げや、新しいシーズから事業化していくような場合はイノベーションの創出が求められ、そのための学び直しに対するニーズは極めて強いと考えています。その結果、大学を卒業した後の学びを含めた「学習歴」が重視されるというわけです。

このような考えのもと、東京大学ではマイクロクレデンシャルの検討を進めています。マイクロクレデンシャルとは、選択した領域で新しいスキルを習得できる短期間のコースを意味し、「学んだこと」に対して大学がクレジットを発行し、オープンバッジとして証明します。これが企業の人事評価や中途採用の場面における指標となり、「学歴」ではない「学習歴」による知識やスキルの評価、あるいは学びに対する意欲を評価できることで、キャリアへの影響が生み出せたら面白いなと考えています。

ーそうすると、人材を評価する軸にも変化がありそうですね。

変化する企業と変化しない企業は二極化すると思います。イノベーションに意欲的な企業なのか、あるいは既存事業を守り続けたい企業なのか。前者の企業には、これまでとは異なる人材の評価軸が必要になると思います。

昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる中、現実問題としてデジタル化を進めることはできるが、トランスフォメーションをデザインできる人材が限られるといった状況が見受けられます。だからこそ学び直しが重要なわけですが、イノベーションを求める場合、学んだからといってすぐに成果が出るとは限りません。これまでのように一定期間における短期的な成果だけで人材を評価することが適切だとは言えないでしょう。むしろ、短期的な視点だけで人材の評価を下げるような企業は、AIが浸透する時代に衰退していく可能性すらあると思いますね。

SECTION 003

生成AIを利用しない世界はもう来ない。大切なのは自分の基準を持つこと

ー生成AI時代において、どのような人材の輩出が必要だとお考えですか?

先ほども述べたとおり、生成AIの台頭によって、今までAIに全く縁がなかった、あるいはリテラシーがなかった人たちもAIを道具として使えるようになりました。まずは生成AIを正しく使いこなせるようにリテラシーを上げていくことが重要です。そして、これから新しい生成AIがどんどん誕生し、多様化していくことが予測される社会における人材育成では、2つの重要なポイントがあると考えています。

1つ目は生成AIを生み出せる人材をどう育てるか。検索エンジンは米国由来のGoogleやYahoo!が日本のスタンダードになっているわけですが、生成AIのスタンダードはまだ確立されていません。海外では浸透していない日本語という言語を扱っていることを考えると、日本語に特化した高品質な生成AIを生み出せる人材の育成が必要だと考えています。

2つ目は様々な生成AIを組み合わせた活用方法を考えられる人材です。生成AIは単体での活用だけでなく、組み合わせによってアウトプットの質や生産性が向上する可能性を持っています。その組み合わせは生成AIの多様化とともに増大していくわけです。新しい生成AIが出てきたときに、その利便性とリスクを把握し、最適な組み合わせを考えられる人材。これができるかどうかで、仕事の効率が高い人とそうでない人に分かれてくるのではないでしょうか。

ーこれから生成AIリスキリングに取り組もうとしている人にメッセージをお願いします。

生成AIを活用することで、ふとしたアイデアを拡張できたり、自分一人では思い浮かばないヒントをすぐに得られたりするようになると思います。私にとっても生成AIは大変身近な存在で、かなりの頻度でChatGPTを利用しています。ハルシネーション(もっともらしいウソ)が起こったり、情報深度が浅かったりする場合もありますが、手直ししながら利用したとしても、作業効率はかなり向上しています。これは夢のある話である一方、正しく使いこなせるようにリテラシーを上げていくことが重要です。

生成AIを利用しない世界はもう来ないでしょう。だからこそ、生成AIとどのように向き合い、利用していくのか、自分の基準を持つことが大切です。そのための手段として、「生成AIパスポート」を取得するために学ぶことは、非常に前向きなことだと思います。私たちはこれからも学び続ける人たちの活躍を応援していきたいと思います。

PROFILE
TAKAFUMI YAMAMOTO

中央大学卒。株式会社リクルートで産学連携による技術移転スキームを提案、事業化に向け始動。その後、米国の技術移転に関する研究を行い、2000年に先端科学技術インキュベーションセンター(現株式会社東京大学TLO)代表取締役社長就任。2018年から東京大学 副理事兼務、2020年東京大学エクステンション株式会社 代表取締役社長兼務。2023年、東大TLO代表取締役社長退任、顧問に就任。理化学研究所 副理事、株式会社理研鼎業 取締役兼務。

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