企業・行政機関の生成AI導入のリアル。「成功と失敗の分岐点」とは?

INTERVIEW 014
YUSHI YAMAKAWA
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生成AIが組織に導入されると、私たちの業務はどのように変わっていくのか。ChatGPT活用プラットフォーム「法人GAI」「行政GAI」を提供し、多くの企業や行政機関の生成AI活用をサポートしている株式会社ギブリー 取締役の山川 雄志氏にお話を伺いました。生成AIの導入について、山川氏は「業務フローにきちんと落とし込んでいるか」「フラッグシップを持って推進する人がいるか」が重要だと語ります。企業・行政機関の生成AI導入における成功と失敗の分岐点を探ります。

誰でも使える状態なのに、毎日使う人はほとんどいない。企業・行政機関における「生成AIの現在地」

ー山川さんが生成AIに注目したきっかけと背景を教えていただけますか?

ギブリーは6年ほど前からAI活用事業を展開していました。自然言語処理や機械学習のようなAI技術を活用し、顧客や社内で起きる問い合わせ対応を自動化する用途を中心にAIチャットボットを1000社以上に導入してきました。事業を展開していく中で、自分専用のバーチャルAIアシスタントが登場する世の中になっていく想定は頭の中にありました。当時は5年先か10年先かはわかりませんでしたが、AIが自律的に人のクリエイティビティを支援するような技術を海外の企業が発表するんだろうなと。

ところが思った以上に早く、生成AIという形でその技術が生まれたので、私たちも対応していかなければと思い、2023年4月に法人向けChatGPT活用プラットフォーム「法人GAI」をリリースしました。日本国内の同様のサービスでは、おそらく最速でのリリースとなります。その後、行政機関向けに特化した「行政GAI」をリリースしました。

ー生成AIを導入する企業や行政機関が少しずつ増えています。企業・行政機関における「生成AIの現在地」をどのように見ていますか?

ChatGPTはパソコンでもスマホでも、無料で誰でも使えます。一方で、誰でも使える状態にはなっているけど、毎日使っている人はほとんどいない。便利だとわかっているけど、どう使えばいいかわからないんです。使いたいように使えるようになることも大切ですが、使い方がわからない人でも簡単に使える状況を増やしていくことが重要だと思います。

弊社のサービスを通じて、非常に多くのビジネスパーソンや公務員の方々にChatGPTをご活用いただいています。ChatGPTをよく活用できている企業や行政機関は、活用する方々のアンテナが高かったり、フラッグシップを持って推進する人がいるんです。これは非常に素晴らしいことですよね。こういった人材の存在が、よい使い方がまだイメージできていないという方の一歩目を後押しすることにもつながります。

生成AI導入、成功と失敗の分岐点とは?

ー生成AIの導入における成功と失敗の分岐点はどこにあるとお考えですか?

生成AIを活用して組織のDXおよび業務自動化が成功する組織は、業務フローにきちんと落とし込んでいるケースが多いですね。「自由に使って、いろいろやってみよう」だけでは、使う人だけ使うし、使わない人は使わない形になってしまいます。まずは業務の棚卸しから始めて、業務に対してどんな生成AIの使い方がよいのかをセットで考え、具体的にプロンプトまで設計した形で業務に落とし込み、それに沿って社員が使う。このような手順で業務フローに落とし込まないと、成功は難しいと思います。

また、組織体制の観点としては、若手でもベテランでもいいので、「自分たちの業務を改善したい!」という意欲の高い人をタスクフォースとして、生成AI活用を推進するチームを編成するといいと思います。自分たちの業務で「この領域をこう改善しよう」と解像度が高くなったら、それを他のメンバーにも横展開していく形が最も望ましいと感じますね。

年間1人あたり400時間、約20%の工数削減見込み。事例に学ぶ生成AI活用の成果

ー生成AIの導入に成功した企業や行政機関では、どんな成果が出ていますか?

弊社のクライアントでは日清食品さんが良い事例です。営業社員に対するChatGPTの活用を支援していて、年間1人あたり400時間、工数に換算すると約20%の削減が見込まれる形の成果が出ました。主に削減できたのは、報告書や資料の作成時間です。営業業務のコアになるお客さまとのコミュニケーション以外に取られていた時間がChatGPTを活用することで削減され、結果的に業務の効率化が進むことが想定されます。

ー最後に未来予測的な意味を含め、生成AIの可能性について教えてください。

今は「生成AIを使うために業務の自動化を考える」といったように、生成AIの活用が手段でなく目的になっている事例が多いですよね。どんな組織でも最終的には仕事がうまくいく状態を目指したい。生成AIはその状態を目指すための手段であるべきと考えたとき、今は割とHOW(手法・方法)が注目されているように思います。例えば「リスク回避ができるプロンプトの書き方」など。

しかし、これからはプロンプトを書かなくても人間がやりたいと思ったときに、AIが自律的にどんどん仕事を進めてくれる世の中になっていくと考えています。あらゆる領域において、生成AIの活用が進んでいくと思います。

PROFILE

YUSHI YAMAKAWA

一般社団法人生成AI活用普及協会 協議員/株式会社ギブリー 取締役
2006年、中央大学在学中に学生起業し、広告事業、採用支援事業を展開。2008年、同大学を卒業。2009年、株式会社ギブリー創業、取締役に就任。創業後は一貫して新規事業創出を担い、現在展開されている各事業のベースとなる事業開発、セールス組織立ち上げ、採用業務などを担う。2018年よりAIを活用した業務自動化サービスを立ち上げ、現在は生成AI関連の事業を管掌。